« なにしろラジオ好きなもんで | トップページ | ただいま奮闘中 »

「PRISM」見学

Prism01

去年の12月、ご縁と幸運なタイミングが重なって東京は本郷にある東大の施設見学に行ってきました。なんでもクリーンルームの中にあるものを見学させていただけるということで。

打ち上げを約2ヶ月前に控えた東京大学中須賀研究室の人工衛星「PRISM
いつも施設見学等で見ている実物大模型やエンジニアリングモデルではなく、宇宙へ行くフライトモデル、そう「実機」を見学させていただきまいた。

公開の許可が頂けましたので、いつもより写真大きめで紹介!
(“初めての経験”で舞い上がっていた人間が聞いたことを書いています。かなり間違ったり勘違いしているところがあるかもしれません。それらはすべて私の間違いです。ご容赦ください)

「PRISM」は、東京大学中須賀研究室の超小型人工衛星です。
小さいながらも、一昔前の人工衛星が撮影していた地表分解能30mでの画像撮影や宇宙用ではなく民生品を利用した技術試験・実証にアマチュア無線家からコマンドを受け付けるサービスの実施と、挑戦的なミッションを行うことになっています。(詳しい内容は<PRISMプロジェクトサイト:PRISMについて>をどうぞ)

突然、その「PRISM」を見学出来ると話しが舞い込んできました。打ち上げ前で迷惑でないかと思いましたが、せっかくのチャンスなのでありがたくお受けして喜び勇んで行ってきました。


見学場所は、クリーンルームでした。いわゆる防塵服に着替えてエアーシャワーを通っていく本格的なやつです。
なんでも研究室がある工学部の建物が耐震工事中だからだそうです。(工学部の建物の耐震強度が“姉歯物件”に負けずとも劣らずだったとか)

Prism02
初めてのクリーンルーム体験で着替えに悪戦苦闘してしまいましたが、なんとか着替えてクリーンルーム内へ。
共用の施設なので他の研究室の機材などある中、机の上にちょこんと置かれていました。

Prism03
参加した人たちで「PRISM」を取り囲んでの見学。おかげでかなり細かいところまで見ることが出来ました。(ついいつもの癖で近づきすぎてやんわりと注意されたのはここだけの秘密です)
資料などのイラストよりも締まっているように見えました。

手作り感満載で細かいところまでよく作り込まれていました。締まって見えたのは無駄な箇所がなく練りにねって設計されていると感じたからでしょう。
打ち上げを控えてプラスチック板やぷちぷちクッションで覆われていましたけど迫力十分。これが宇宙へ行くんだと思うとちょっと信じられない半分ひたすら凄い半分でした。


案内役の方から一通り「PRISM」の説明があってその後は質問タイム。「宇宙オタク」ということで先陣を切らされました(笑)
いきなりだったので目についたところから質問。

Prism04
写真から分かるとおり、太陽電池がところどころ貼っていない部分があるように思えました。これについて意味があるのか?

「予算がなかったから」だそうです(笑)
他にも太陽電池一枚あたりの発電量は小さいので直列につないでひとまとまりにしている。その組み合わせも関係しているそうです。


PRISMのホームページなどを見ていると気がついたことがあったのでこれも質問。
イラストを見ていると展開された太陽電池パネルの格好が2パターンほど見受けられました。十字型に展開するパターンと横開きに開くパターンです。(あとでよく見たらI型に開いているイラストもあり、全部で3パターンですね)
さて、目の前の実機は十字型。この違いは今回の軌道に関係するか、です。

もともとは打ち上げロケットも軌道も決まってないときに、横にパネルが展開する形で設計していたそうです。
H-IIAロケット15号機温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」との相乗りが決まって改めて計算したところ、この形状だと電力不足であることが分かったそうです。それで今回の形状になったとのこと。
ちなみに横に展開する形を「135度パネル」と言われていました。


続いてはPRISMの特徴のひとつであるカメラの望遠鏡が衛星の姿勢にどう影響するかを聞かせてもらいました。
これだけ一方向に長い形をしていると普通宇宙空間では鉛筆回しのようにスピンしてしまうはず。慣性モーメンタムってやつです。資料など読むと磁気トルカで姿勢制御しているので問題ないということですが、実際は?ってことです。

これもうまいことになっていて、いわゆる重力傾斜で長い方向がちゃんと地球に向くように動くそうです。ただしこれだとカメラが地球を向くか背を向けるかどちらかになるのでそのときは磁気トルカで地球を向くように制御するそうです。

Prism05
写真は縮めた状態ですがこの伸展ブームは特許出願済のものです。レンズを螺旋状のアームで支えています。棒状のアームだと太陽光のあたり方に偏りが出るのでよろしくない。でも、螺旋状であればそれぞれのアームに太陽光があたるので望遠鏡が安定するそうです。ちなみに長い時間で見るとアームは縮小する傾向だそうです。


一緒に見学していた方も代わる代わるに質問されていました。
衛星の重さとか軌道の高度とか衛星の速度とか宇宙の温度とかとか。
これらの質問を聞いていて「普通はこういう質問するんだよな」と自分は違うんだと思い知らされました……(笑)


「宇宙には気流のようなものはあるんですか?」という質問にも、案内の方は丁寧に回答されていたのはさすがです。
この質問の中でPRISMの軌道寿命は約25年と説明がありました。
実際は、衛星自体がそこまで持つか分からないそうです。もっとも劣化しやすいのがバッテリー。地球を周回するたびに充放電するので寿命が短くなりやすい。でも、今までのキューブサットからの経験上予想よりも長生きして楽しめそう、とのこと。うん、良いこと聞けました。


Prism06
アンテナでもおもしろい話しが聞けました。
キューブサットの時は予算がないから、巻き尺を必要な長さに切って使っているのは有名な話しです。PRISMもこのアンテナを使用しています。
実は、キューブサットのアンテナは巻き尺のような性質を持った板をぶったぎって使ったそうです。でも、今回のPRISMでは正真正銘の巻き尺をアンテナの長さに切って使用しています。
その時、巻き尺のメーカーに問い合わせたそうです。
「目盛りのないやつ作れませんか?」


ロケットから切り離す順番についても質問してみました。
JAXAの「平成20年度冬期ロケット打上げ及び追跡管制計画書(PDF)」によりますと、PRISMは一番最後の切り離しです。私の予想では、小型副衛星の中で一番実績があるからだと思っていました。

切り離しの順番はJAXAが決めて順番の意味合いなどはどういう理由だったかはいまいち分からないそうです。恐らく「PRISM」はいろいろ“動く”から最後になったのでは?とかありました。


Prism07
PRISMの「分離・放出機構」も見せていただきました。これも「実機」です。
案内して下さった方がこちらの担当で、いろいろ材料等などもつっこんで説明してくれました。PRISMを放出しやすくするために一部にはじめてテフロン材料を使ったそうです。テフロン材は、キューブサット時代から採用しているそうです。PRISMの放出機構においてはエンジニアリングモデルでは使用していませんでしたが、フライトモデルで放出機構内の四隅にテフロン加工をして放出しやすくしたそうです。
(後からいただいたメールには「テフロン材は真空蒸着(宇宙空間上で金属同士がくっついてしまうこと)を防ぐことと、摩擦を軽減する目的で使用しております。非常に安定性がよく、宇宙では比較的使用されている有機材料です」と説明をいただきました。なるほど放出機構にもってこいの材料ですね)

放出に使用するバネはチタン製かと思って聞いたところ、えー、材料名忘れました(笑)SUS304という一般的なステンレスを採用しているそうです。あまりにも一般的な材料だったのでびっくりしたのを思い出しました。ロケットでバネを縮めた状態が長くなるような環境の場合は、材料に必ず復元するチタンを使う、と頭にあったからです。この話しをしたところ、宇宙で使える材料の話しなどを聞かせていただきました。

こちらは得意でないのでいろいろ宇宙で使える材料名が飛び交っていたのに覚えてられなくて本当に残念。今思えばいつも使っているICレコーダを用意しなかったのが悔やまれます。
でも、あの材料は良いとかどうとか話しているのを聞くと着々とノウハウが蓄積されているのが分かって頼もしかったです。

この話しの件で「フェアリングが開いたときに、蓋が開いていたらどきどきですよね」と笑って話されていました。
実際、<「いぶき」搭載:衛星分離の様子>で主衛星「いぶき」分離後に撮影した写真を見れば分かるとおり、しっかりと仕事しています。さすがです。


フライトモデルを前に一時間半ほど見学させていただきました。
まさに至福の時間でした。なにせ実物の人工衛星をこの目で見られたんですから。
施設見学などでガラス越しにフライトモデルを見たことはあります。でも、一切遮るもの無しの目の前ですからね。そりゃー宇宙開発オタクとしては舞い上がりっぱなしでしたよ。

見学の最後に別の場所にある通常使われているものと同じビニールカーテン製のクリーンルームも少し見せてもらいました。そうそうクリーンルームと聞いてこれを初めは予想していました。同行の見学者たちは、これを見て喜んでいる私にあきれていたようですけど(笑)
ちなみに、見学前日我が家でこんなやり取りがありました。
「仕事で東大に施設見学行ってくる」
「何しに行くの?」
「人工衛星が見学出来ることになったから行ってくる」
「……仕事?」(莫迦笑い)


キューブサットから続くこの流れは良いですよね。遠くてちょっと壁を感じるときもある宇宙開発がえらく身近に感じられます。なんたってPRISMの基板を発注した会社はうちでも使ったことあるし(笑) クリーンルーム内で「宇宙はここまで厳しくない」という言葉にもそれを感じました。


「PRISM」は、2009年1月23日鹿児島県の種子島宇宙センターからH-IIAロケット15号機で打ち上げられ、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」と相乗り衛星全機共に無事周回軌道に投入されました。
目の前で見た人工衛星が今まさに宇宙を飛んでいるわけです。いやー本当に感動しています。

見学させていただいたんだから「一宿一飯の恩義」ではないですがビーコンくらい受信してからでないと、とやっていたらこんなに時間が経ってしまいました。先週末やっとまともに受信できました。こちらの話しはまた後ほど。


見学にあたって、ご縁をつくっていただいた方々、案内を勤めていただいた中須賀研究室の方、見学内容をブログに掲載するに当たって質問にさせていただきわざわざ写真のチェックまでして下さった東大局の方、みなさま本当にありがとうございました。
気の抜けない運用が続くと思います。応援することくらいしか出来ませんけど、ミッションの完遂を目指してがんばって下さい!

2008年最良の日でした。


------------
3月1日追記
この記事を掲載した後で、案内を勤めていただいた方からメールを頂戴しました。
本文について丁寧なコメントをいただきありがとうございました。
その中で、私のうろ覚えや聞き間違いがあったことが分かりましたので2個所訂正いたしました。

|

« なにしろラジオ好きなもんで | トップページ | ただいま奮闘中 »

「宇宙開発」カテゴリの記事

「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/49026/44131679

この記事へのトラックバック一覧です: 「PRISM」見学:

« なにしろラジオ好きなもんで | トップページ | ただいま奮闘中 »