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『甦った人工衛星』

先月末に都内に出かけました。そのとき八重洲ブックセンターで購入。
正直こんな本が出ていたんだと驚きました。早速読んでみてさらに驚きましたよ。
この本は、凄いの一言です。

『甦った人工衛星 -かけはし100日の記録-』
(小澤啓佑 COMETS追跡管制隊 ISBN4-87974-006-3 松香堂)

2000年3月発行とあります。当時本屋で見かけた記憶がないんですよね。うかつにも見落としていたんですね……。
とにかく購入できたことに感謝です。

「COMETS」とこと通信放送技術衛星「かけはし」
1998(平成10)年2月21日に打ち上げられましたがロケットの第2段目の不具合で所定の軌道に投入されませんでした。それでも準回帰軌道に投入し予定の半分の実験を行って運用を終了しています。
この本は、「かけはし」がロケット分離後どうも所定の軌道に乗っていないという非常事態が判明してから、とにかく少しでも実験の出来る軌道へ移行するまでの100日間を時系列に追った話しです。

もともと地球をほぼ一日で周回する軌道に乗るはずの衛星が、予想外の軌道に投入されてしまった。
地球の影に入る時間帯が多くなり太陽電池の発電量が予定よりも少ない。少ないということは衛星を暖めるヒーターをはじめ電子機器などが使えなくなれば「かけはし」の死を意味しています。また、地球に近い軌道を飛行しているためごく薄い大気の影響で絶えず姿勢制御をしなくてはいけない。計画されていたとは比較にならないほどの燃料を消費している。(静止軌道に投入されてから3年間で約40キロの燃料を使う予定が、なんと1日あたり1.6キロも噴射している状況!) 燃料がなくなれば正しい姿勢を保つことが出来なくなり、これも「かけはし」の死を意味しています。

そんな状況に置かれてしまった「かけはし」を救うべく、宇宙開発事業団をはじめ衛星開発メーカー海外の地上局と共に救出運用の詳細がここに描かれています。
予定の軌道に入らなかっただけでも十分困難な状況なのに、その軌道を変更するだけでも数々の問題を抱えてどれが最善の選択肢なのか。「かけはし」の寿命と予定の実験のどれだけ行うかは、ある意味相反する選択であって運用に携わった人たちの苦渋が伝わってきます。
手に汗握ると言えば大げさかもしれませんが、でもそれに十分値するだけの迫力がありました。
イレギュラーな形ではありますが、人工衛星を運用がどれだけのことかが思う存分知ることが出来ます。

それから世界中の地上局が登場しています。
少しでも実験可能な軌道に乗せるために都合7回の軌道修正を行います。予定外の軌道を回っているので日本の地上局だけでは間に合わず、各国の地上局に応援を願います。その模様も書かれているので非常に興味深かったですね。嬉しいことに白黒写真ではありますが日本も含めて各地上局の写真があります。名前だけでしか知らなかった地上局もこう見ると親近感がわきますね。

軌道投入失敗、「かけはし」を利用した実験も予定のおよそ半数だけ。失敗と一言で片づけられても仕方がない話を、ただの失敗話になっていないところにこの本の価値があると思います。
あとがきにありますが「……青少年はじめ多くの方々に、宇宙開発について広く理解をいただくため……」「……宇宙開発事業の中では、目立たず裏方的存在の人工衛星追跡管制隊の、必死の作業状況をお伝えすることを主旨として編集……」ということは十分に達せられていると思います。
この本の編集に出版社の松香堂(ホームページを見るとまだ手に入るみたいです)と宇宙作家クラブからは笹本さんと松浦さんが協力しています。なるほど納得。


久々に手応えのある本が読めて良かったです。こういう本が次々と企画されて読めることを期待します。


……それにしても日本も地球規模で地上局がほしいですね。よく言われる南米ともう1カ所。私的には南米の他にヨーロッパ、ドイツ辺りならどうかなと思います。自国のロケット・衛星だけでなく、各国の衛星が「かけはし」のようなトラブルに見舞われたときに役立つと思うんですが……。

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